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ノーコード・ローコード開発の多様化の真実

ローコード開発の普及に伴って、(ノーコード開発を含め)様々なツールや事例を日常的に目にするようになりました。
「ノーコード・ローコード開発」という言葉を聞かない日がないくらいです。
しかし、ひとくちに「ノーコード・ローコード開発」と言ってしまってよいものでしょうか。
今回はローコード開発と一緒に語られることの多いノーコード開発を含め「ノーコード・ローコード開発の多様化」をテーマに、現在の「開発をとりまく状況」を整理してみます。

ノーコード・ローコード開発という言葉は近年出てきたものですが、このような特徴を持つ開発ツール※は古くからありました。
例えば、Webサイト構築ツールであるWordpressはソフトウェアの種類としてはCMS(Contents Management System)です。
これを開発ツールとしてみた場合、ノーコードでWebサイトを製作できるツールと言えます。
また、PHPやJavaScriptのコードで機能拡張できることからローコード開発ツールとも言えます。
「ノーコード・ローコード」で開発できる特徴を持つ色々な種類の開発ツール※がノーコード・ローコード開発と銘打って提供されています。・・・(1)
  ※Webアプリケーション開発ツール、データ連携ツール、自動テストツール、帳票開発ツール、Webサイト構築ツールなど。
加えて、ERPやSCMなど、特定用途のアプリケーションが「ノーコード・ローコード」で機能設定・拡張できる開発ツールを提供しています。・・・(2)

ここで1つ目の(ノーコード・ローコード開発ツールの)多様化について整理します。

1. 「ノーコード・ローコード開発ツール」が新たに登場した以外に(1)(2)のように既存の開発ツールやアプリケーション・ソフトウェアが
  「ノーコード・ローコード開発」の特徴をアピールすることで、広く使われている状況が生まれている。

2. 「ノーコード・ローコード開発ツール」というのは、Webアプリケーション開発ツール、データ連携ツール、自動テストツール、帳票開発ツールといった、
  何々を開発するためのツールを指すものではない。そのため、これらと横並びで比較するものではなく、
  開発の仕方が「ノーコード・ローコード」なツールであるという開発ツールの属性の1つであるということ。

3. 様々な「ノーコード・ローコード開発」事例があることで、「ノーコード・ローコード開発ツール」というジャンルの開発ツールが万能であるように見えるかもしれないが、
  それは幻想であるということ。あくまでも「ノーコード・ローコード開発ツール」と銘打った様々な開発ツールが様々な事例で使われているということであり、
  特定の開発ツールのことを指していない、ということ。

このような状況においては、「ノーコード・ローコード開発ツール」を自社の(またはお客様の)システム開発の案件特性にあわせて選定することは難易度が高く、
不要なシステム開発の失敗事例を生み出し、「ノーコード・ローコード開発」がバズワード化してしまうことが懸念されます。
案件ごとに異なるツールを行うことは非効率なため、使用するツールの標準化は必要です。
しかし、過度に「(1つの)開発ツールで、あらゆるシステム開発を行える」という幻想は捨てる必要があります。
「世界的に、多くの大手企業が2021年末までに、何らかの形で複数のローコードツールを採用するだろう」とガートナーのレポートにあるように、使い分けを考える必要があります。
ローコード開発コミュニティでは、そのようなツールの使い分け/選定を助けることを目的とした(ノーコード開発を含む)「ローコード開発ツール 製品カタログ&マップ」を昨年から提供しています。
これは「ローコード開発コミュニティ」に参加している企業が提供するツールの特徴を示したカタログとなっています。

ここで、ノーコード開発とローコード開発のツールの違いについて整理します。

・ノーコード(エンジン型):プログラミング言語知識不要。
 プログラムコードを書くことなく制約の範囲内でアプリケーションを開発できるツール。
・ローコード(コード生成型):設計情報を入力することでプログラムコードを生成するツール。
 プログラミング言語知識があれば、生成したプログラムコードを改修・拡張することができる。
・ローコード(エンジン&コード拡張型):ノーコード開発ツールと同様。
 ただし、開発したアプリケーションにプログラムコードを追加し、機能を拡張することができる。

「ノーコード開発」と2種類の「ローコード開発」は、その得意・不得意に応じて適用される領域が異なります。
これが2つ目(ツールではなく、ノーコード・ローコード開発)の多様化です。
現在、この多様化を複雑なものにしているのが「DX」と「内製化」です。
DXを新規事業開発と捉えた場合、そのためのシステム開発は大雑把に3種類あります。

1. 売上拡大のための新規事業開発においてデジタル技術を使ったシステム開発
2. 新規事業に既存事業のデジタル情報を活用するためのシステム開発
3. 既存業務の中でデジタル化されていないデータをデジタル化するためのシステム開発。

ここに新規事業を行う自社でシステム開発を行うという文脈で「内製化」が絡んできます。
しかし、この内製化はその目的によって2つに分けられます。

A) 開発・リリースのサイクルを高速化することを目的としたアジャイル開発での内製化
B) 従来システム開発要員ではなかった自社の社員をIT人材化して行う市民開発

この1~3、AとBの組み合わせによって、求められる開発スタイルや開発ツールは異なります。
これが多様化した結果起きている複雑性の要因と考えています。
さらにDXの中で使われるAI技術やマイクロサービスというキーワードに象徴されるAPI利用型の開発もノーコード・ローコード化が進んでいることもその要因です。
ITシステムはできるだけ「作らない」方向に進むという流れは変わらないはずですが、多様化した状態がしばらく続くものと考えています。
「ソースコードをゼロから組み上げるスクラッチ開発」と「既存のパッケージやサービスを使う」システムの作り方に「ノーコード・ローコード開発」が加わることで起きている現在のシステム開発が今後どうなっていくのか。
ローコード開発コミュニティでは12月に(ノーコード開発を含め)ローコード開発の現状と今後について、以下の2つをテーマとしたパネルディスカッションを行うイベントを準備しています。

1. ローコード開発とDXの関係は何か
2. ローコード開発はスクラッチ開発の代替となっているのか

このコラムの続きは様々な立場の方とイベントのセッションの中で、としたいと思います。
興味をお持ちいただけたら是非イベントにご参加ください。


2022年9月12日 ローコード開発コミュニティ幹事 堀井大砂(SCSK株式会社)

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